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執筆者の写真liasira2

ウクライナ:イワーン・フランコー「小舟」

更新日:2022年5月25日


波は嬉しげにさざめき小舟を愛でる、

幼子のように知りたがりの波は囁き問う。

「あなたは誰、小舟さん? 何しているの、小舟さん? どこから来てどこへ行くの?

「そこへ何を探しに行くの? 何をしていたの? 何をまだ待っているの?」


のろのろと這い小舟はぼそぼそ話す。

「どこから来たか、自分も知らない。

私の永遠の航走が何を以て終わるか、これも知らない。波は運び、嵐は吠え、

崖たちは脅し、岸辺は誘い頼んで私を招く。


「波は人生、我が柩、愛撫、そして我が死。

自分の柩のうえを永遠に流れゆく不安な私。

この柩が我が下にあるうちはただ真実に生きるのみ。

風は追い、波は壊す――そうしたら私はもう水の底。


「何をここで考えるか、何を恋しがるのか、目的地を知ろうとするのか?

今日は生きて、明日には朽ちる――今日は恐怖、明日には痛み。

母なる自然は必要なときは私たちを支えておいて、

結局私をまるごと自分のために取り上げるそうだ。


「何をここで考えるのか? 支えるなら支え、取り上げるなら

取り上げて――いずれにしても私に訊ねやしない。

悪天の、自由のない私の日、私の年月。生きるも死ぬも

同じこと! 目的地を探す? 長年闘い、航海を諦めるな!」


波は楽しげにさざめき小舟を愛でる、

子供のように優しい波は囁き囁き言う。

「小舟のお兄さん、喜びを探すは死のなかに、お墓のうえ――

これも悲しみではない! 海をご覧、いくつの帆が走っていることでしょう!


「ここに沈んだ小舟は一艘ならず、だけどみんなが沈んだわけじゃない。

九艘帰らずとも、十艘目は帰って

波止場にまで辿り着いた。だけどどこにも辿り着きはしない、

目的地を持たぬ者は。小舟さん、進むのならばどこに向かうか知ることよ!


「それに海はいつも荒れるわけじゃないし、穏やかなときの方が多いわ。

それに小舟がみんな嵐で沈むわけじゃない――安心なさいよ!

嵐で助かるのはあなたかもしれないでしょう?

もしかして、目的地まで漕ぎ着けるのはあなたかもしれない!」


ストレィーイ、1880年6月13日。


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Франко І. Човен // З вершин і низин. Збірник поезій Івана Франка. Львів: Наукове Товариство імени Шевченка, 1893. С. 53–54.

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イワーン・フランコー(Іван Франко, 1856–1916)の詩「小舟」(«Човен», 1880)の全訳。

フランコーは、西ウクライナ出身の小説家、詩人、劇作家、翻訳家、政治活動家、文学批評家、時事評論家、学者、博士。


ウクライナ語で「小舟」は男性名詞、「波」は女性名詞である。したがって、それぞれ男性と女性の言葉で話している。


ストレィーイ(Стрий)は、現在はリヴィーウ州の地区中心市。当時はオーストリア=ハンガリー帝国領。


※写真はイメージ(ポノーラ川のホレィーニ川合流地点、イジャースラウ城址)


2022年5月4日(水)掲載(25日23:00写真追加)

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